「就職活動結果と自己効力感の関係」に関する研究結果を公開
<調査背景>
人生100年時代と言われ、働く期間の長期化や、働き方の多様化が進む中、企業側は、「いかに優秀な人材を確保し、リテンションし続けることができるか」、個人側は、「いかに選ばれる個人として、自分自身の市場価値を高めることができるか」が問われている。
コロナ禍にまつわる働き方の変化をはじめ、変化の激しい現代において、どのような個人が会社から選ばれ、納得感をもって就職活動を終えることができているのだろうか。また、そのような個人を育てるために、周囲からはどんな働きかけができるのだろうか。
本調査では、長いキャリアの中でも最初の入り口となる「学生の就職活動」に焦点を当てて、調査を実施した。就職活動を終えた2022年度入社予定の大学4年生・大学院2年生を対象にしたアンケート結果を紐解くことで、“選ばれる個人”にはどんな特徴があるのか、そのために周囲からどんな働きかけができるのか、について
それぞれ考察したい。
<調査概要>
本調査では、以下3種の調査項目を元に、アンケートを実施した。
調査項目① 「就職活動結果」に関する項目
“選ばれる個人”を検証するために、実際の就職活動結果に関して、下記2つのカテゴリーに分けて調査項目を設計した。
a)第一志望内定率:希望している企業、ないしは、希望している業界や職種での内定を取得できたか
b)結果への納得感:就職活動に対して、納得感をもって終えることができたか
表1 【就職活動結果】の調査項目 ※(R):反転項目
調査項目② 「自己効力感」に関する項目
キャリア関連の研究において、有効な知見を提供する概念のひとつに「自己効力感」がある。
「自己効力感」とは、“課題達成に必要な行動を首尾よく行う能力の自己評価”と定義される概念であり、一般的に、「課題特異的自己効力感」と「一般性自己効力感」の2種類に分けられる。
■課題特異的自己効力感:特定の場面において、一時的に影響を及ぼす自己効力感
■一般性自己効力感:特定の場面に関わらず、日常生活全般で影響を及ぼす自己効力感
後者は、性格特性的な認知傾向とみなすことが可能であるとして、「特性的自己効力感」と呼ばれている。
(cf.成田・下仲・中里・河合・佐藤・長田,1995)
本調査においては、調査の目的を鑑みて、後者の「特性的自己効力感」を“自己効力感”と定義して、分析を進めることとする。
調査項目③ 「他者の関わり度合い」に関する項目
当社では、個人の自己効力感を高めながら、成長を促すサイクルとして、「自己への期待」→「殻を破る挑戦」→「結果としての成功」→「自分への自信」の4つを定義している。
本調査では、「他者の関わり度合い」を測るために、この成長サイクルをベースとしながらも、当グループ会社である『進学塾モチベーションアカデミア』における実践知も交えながら、下記5つの項目を設定した。
図1 【他者の関わり度合い】の構造
表2 【他者の関わり度合い】の調査項目
【分析対象】
当グループ会社である『(株)リンク・アイ』の登録学生(大学4年生・大学院2年生)433名
【調査期間】
2021年7月末~8月中旬
<調査結果>
■「第一志望内定率」との関連性は見られなかったが、自己効力感が高い人ほど、就職活動の「結果への
納得感」が高いことがわかった。
【1】「自己効力感」と「就職活動結果」との関係
アンケート結果から、相関関係を分析し、図2に示した。
図2のとおり、「自己効力感」と「第一志望内定率」に関しては、相関が見られなかった。一方、「自己効力感」と就職活動の「結果への納得感」に関しては、一定の相関が見られた。
このことから、「第一志望内定率」との関連性は見られなかったが、自己効力感が高い人ほど、就職活動の「結果への納得感」が高いことがわかった。
図2 「自己効力感」と「就職活動結果」との関係
■過去に「他者から期待」をかけられていた人や、「挑戦への後押し」をしてもらっていた人ほど、自己効力
感が高いことがわかった。
【2】「他者の関わり度合い」と「自己効力感」との関係
アンケート結果から、相関関係を分析し、図3に示した。
図3のとおり、「他者からの期待」と「自己効力感」に関して、一定の相関が見られた。また同様に、「挑戦への後押し」と「自己効力感」に関しても、一定の相関が見られた。一方で、「選択肢の提示」、「挑戦機会の提供」、「失敗へのフォロー」に関しては、「自己効力感」との相関が見られなかった。
このことから、過去に「他者から期待」をかけられていた人や、「挑戦への後押し」をしてもらっていた人ほど、自己効力感が高いことがわかった。
図3 「他者の関わり度合い」と「自己効力感」との関係
<結論>
人生100年時代において、キャリア選択の“納得感”が重要となっている。
学生の就職活動に焦点を当て、“納得感”高く就活を終えることができた人の特徴を調査したところ、過去に「他者からの期待」や「挑戦への後押し」を受けたことによる「自己効力感の高さ」が共通していた。自己効力感を高めることが、内定辞退の防止や入社後の定着化にも寄与する可能性がある。
これまでの分析結果をまとめると、下記図4のような式が成り立つ。
図4 「就職活動結果への納得感」に関係する項目まとめ
上述のとおり、本調査によって明らかになったことは、
【1】自己効力感が高い人ほど、就職活動の「結果への納得感」が高い
【2】過去に「他者から期待」をかけられていた人や、「挑戦への後押し」をしてもらっていた人ほど、自己効力感が高いの2点である。
これらをまとめると、納得のいく就職活動をするためには、まず自己効力感を高めることが重要であり、その自己効力感を高めるために周囲ができる働きかけとして、「期待をかけてあげること」、「挑戦することに対して後押しをしてあげること」が重要である、と言える。
人生100年時代と言われ、働く期間の長期化や、働き方の多様化が進む中、自分自身の働き方やキャリアプランを見つめなおす個人が増えてきている。一方、 “完全な正解がない時代”ともいわれる昨今においては、「正確性」よりも「納得性」が重要となってきている。就職活動においても、正解を見つけることではなく、自分自身がその選択に納得しているかどうか、が重要ではないだろうか。
本調査では、入社前の学生をターゲットにしているが、就職活動への納得感が高い人ほど、内定辞退の防止や入社後の定着化に繋がる、と想定した際に、入社後も“自己効力感を高く維持できるための、周囲からの働きかけ”が大事ではなかろうか。
「採用活動が終わったらあとは放置」という状態にならぬよう、内定後・入社後も、個人が会社に所属する”納得感“を醸成し続けるために、企業側としても工夫が求められるであろう。
<発行責任者のコメント>
今回のレポートでは、2022年度に入社予定の内定者(大学4年、大学院2年)を対象に、入社予定の企業に対して、どの程度納得感をもって就職活動を終えることができたか、その傾向や特徴を分析し、自己効力感との関連性や他者からの働きかけに関するポイントを探りました。
人生100年時代と言われ、働く期間の長期化や働き方の多様化が進む中で、自分自身の働き方やキャリアプランを見直す人が増えているように思います。しかし、コロナ禍にまつわる働き方の変化をはじめ、変化が激しく“正解がない時代”といわれる現在においては、第一志望の企業に入社することが正解という捉え方ではなく、本人の自己選択に対する“納得感”が重要になってくるのではないでしょうか。
2022年度入社予定の内定者のうち、納得感高く就職活動を終えることができた学生の特徴として「自己効力感の高さ」が共通していました。そして、自己効力感を高めるためには、「他者からの期待」や「挑戦への後押し」という要素が重要であることがわかりました。
これから就職活動を迎える方々にとっては、就職活動の対策ももちろんですが、自分自身の自己効力感を高く維持することが重要となります。自己効力感を高めるには、周囲の人間からの期待伝達や、挑戦の後押しがポイントになります。
また、新入社員を受け入れる企業側としては「採用活動が終わったら放置」ではなく、内定後・入社後の継続的なフォローや後押しが重要となるでしょう。
個人と企業が、“選び・選ばれる関係”を実現していくためにも、周囲から期待を伝え続けたり、挑戦機会を後押しするような、継続的なフォローが必要であると言えるのではないでしょうか。